名 作 R P G を 遊 ぶ (か も) 2

洋ゲーRPGや非電源ゲームを扱った頁でしたが、最近はユルいジャンルになりそうです

トリップ(映画鑑賞)

 哀しくて優しい映画だった。人生に疲れた男――正確にはこの形容は違う。人生というゲームの攻略法が分かりかけた時には元手がなく(カネがないとかコネがないとか学歴がないとか、歳がいってしまったとか、最後のひとつはキョーレツだ)てどうにも挽回できる見込みが薄くなってしまったということだ――にはよく実感できた。若いときにはなかったことだ。

 この映画には原作がある。映画は焦点がよくコントロールされていて、全体としてまとまりのある逸品に仕上がっていた。反面、枝葉末節はエッセンスのみが活かされていて、原作小説の紙幅で語られていたムードは絞りかすのごとく捨て去られていた。例えば、窃盗に入ったシャブ漬けたちが割れたガラス窓に挟まった猫を救出しようと奮闘する挿話は捨てることが出来ないネタのひとつだったろう。原作を読んで映画を観れば、かなりの要素が補完し合い、まさに理想の結婚になる。

 主人公の男にはスケがいる。ヤクの売人でジャンキーでごろつきの窃盗団と縁のある、しようもない女だが、主人公はベタ惚れなのだ。彼女の為なら、その罪全部を自分の裁量権でもみ消してやろうと思うくらい重傷だった。この視点も疲れた男にはよくわかった。甲斐性無しの男が女に恋するってのはそんな感じだ。その女(というよりも、ある場面では未成年の若い娘になってしまう)は無邪気で奔放で偶然に社会のワナを避けているに過ぎないが、自然のパワーに満ち溢れていて、その男には手に入れられない代物の具現のように写る。

 その娘には人生のプレゼントをあげたかった――このくだりは映画にはない。訊けば、もう貰っているという。夢はいつか北に小さな家を持つこと――このくだりのみ使われている。いい伴侶と共に。男は伴侶の候補ではない。年齢によるギャップかもしれないし、若い娘特有の夢想かもしれなかった。アヘン中毒で長く生きていられないだろうことが文中で示される。娘は最後にボブの(主人公の男の、あるいは作者の)手をぎゅっと握って離す。ボブはその感触を彼女が死んだ後だろうと一生忘れないのだ。

 男の方はといえば、昔はこうではなかった。二人の娘がいたし、当然、妻も居た。ところが、ポップコーンの素が入った袋を左手に持って台所に向かったとき――娘達にポップコーンを振る舞おうという、優しい父親を演じている最中だった――に、キッチンの戸棚の縁に後頭部をぶつけて気が付いてしまった。自分が何を嫌っているのか知ってしまった(こんなことはよく体験する)。その過去完了の命題が小説であり映画だ。

 原作者も数奇な男だった。根っからのプレイボーイであるせいか、妻を娶っておきながら長続きしない。貧乏で日々の生活に窮する。ラッキードッグペットストアの逸話は――細君の一人によれば――作者の作り話らしいが、あまりに典型だった。高額の前渡金欲しさに長篇を執筆する。だもんで短篇を膨らませたものが多い。出来のよかった短篇が、長篇になるとぐちゃぐちゃになってしまう。

 そんな作者も、身近での出来事を小説という形で表現しなおしたらしいこの作品になると、希有な名作家の仲間入りを果たしていた。落伍者たちの暮らし向きからはじまり、そうした者が陥るドラッグという暗い領域の輪郭を、一見くだらないタッチで描き、ゴミに隠されたダイヤが見えるようになった疲れた男のような連中から共感を得るのだ。

 劇中の彼らの生活はドンパチこそないが、Grand Theft Auto 3でもあるに違いないいびつな暗部のライブアクションだ。何かが起きると、それは必ずドラッグを基点としている。ドンパチがないぶん、より悲惨なことに、彼らの生活に生彩はない。日々は退屈で、帳尻合わせに時間と健康とが奪われていく。片道切符――予告篇とも呼べる――で戻れる見込みはない。GTA3に付き合うゲーマーの立場みたいなものだ。新しいドラッグはゲームというのはどうだろう、物書き志望の疲れた男の脳味噌が提案する。

 中毒者の更正施設はアメリカ現代文学の主な舞台じゃなかろうか。この作品における使われ方は違うものの、もはや抜きには語れまい。日本だってウカウカしていられない。ヤク中のアイドルや俳優がわんさか居るくらいだから。経済は日本化し、犯罪は北米化するのだ。いたたまれないことだが。

「放射能はドコ化だよ?」ラックマンが不謹慎に言うだろう。バリスがしたり顔で国名をあげてこき下ろすだろう。
「ターン・オン、チューン・アウト、グッド・バイ」ソファーで彼らの話を聞いていた疲れた男は現実に戻ることにする。
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[ 2011/08/18 02:33 ] 文筆 | TB(0) | CM(0)
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